はじめに
2023年7月23日(日)に第128回内科学会四国地方会が高知市文化プラザかるぽーとにて開催されました。
そこでパレコウイルス3型感染症の自験例を発表してきたので、その内容を共有したいと思います。
演題は「発熱・陰部痛ではじまり四肢の筋痛で歩行困難となった成人ヒトパレコウイルス3型感染症の42歳男性」です。
症例
症例は42歳男性で、主訴は歩行困難です。生来健康な方で、妻と乳幼児の子供2人と同居しています。2022年9月下旬、発熱と陰部痛が急に出現して近医泌尿器科を受診したところ「尿管結石排石後」と診断されレボフロキサシンとアセトアミノフェンを処方されました。しかしその後も発熱は持続し、数日の経過で両下肢のしびれ感、四肢の筋痛が出現して起居動作や歩行が困難となりました。近医内科を受診してギラン・バレー症候群が疑われ当院へ紹介入院となりました。明らかなsick contactはないとのことでした。
初診時、痛々しそうに歩くのが非常に印象的でした。熱はすでに下がり陰部痛や両下肢のしびれ感も消失していました。一般身体所見では、心肺腹部に異常所見なく、結膜・口腔粘膜・リンパ節・皮膚・関節、そして陰嚢に特段の異常所見を認めませんでした。
神経学的所見では、四肢の筋力は徒手筋力テストではほぼ正常に保たれており、腱反射も正常でしたが、四肢の筋把握痛と握力低下を認めました。その他、感覚系、脳神経系、小脳系、自律神経系には異常所見を認めませんでした。
迅速抗原検査ではインフルエンザウイルスと新型コロナウイルスはともに陰性で、採血ではCKの上昇とCRPのごく軽度の上昇を認めました。体幹部CTでは腎尿路系に結石を認めず、その他異常所見は認めませんでした。
時系列に沿った所見のまとめです。鑑別疾患として、ギラン・バレー症候群、炎症性筋疾患、ウイルス感染に伴う流行性筋痛症を挙げて、精査を進めました。
神経伝導検査では脱髄あるいは軸索障害のいずれの所見も認めませんでした。また髄液検査では蛋白細胞解離等の異常所見を認めませんでした。そもそも四肢の筋力と腱反射が正常に保たれていることと合わせて、ギラン・バレー症候群は否定的でした。
四肢の筋把握痛とCK上昇から炎症性筋疾患の可能性も考えましたが、スタチンなどの内服歴はなく、膠原病らしい身体所見は認めず、膠原病関連自己抗体も陰性でした。
把握痛を認めた大腿四頭筋のMRIを撮像しましたが、明らかな筋炎所見は認めませんでした。
以上から、本症例の主病態は筋痛であり、乳幼児と同居していること、自然経過で改善傾向であることから成人の流行性筋痛症だと考えられ、特徴的な臨床像からはパレコウイルス3型感染症を強く疑いました。保健所に連絡してパレコウイルス3型の検査が可能であることを確認しました。第4病日に軽快退院となり、その際に採取した咽頭ぬぐい液を保健所に提出したところ、PCR検査でパレコウイルス3型が検出され、同ウイルスによる流行性筋痛症と最終診断しました。
パレコウイルス3型は、2004年本邦で発見された新しいウイルスです。主に乳幼児に感染して上気道炎、胃腸炎、ヘルパンギーナ、手足口病等の多彩な症状を起こします。
一方、成人疾患との関連では、2008年山形県内で若年成人に流行性筋痛症が多発し、その原因ウイルスとしてのちにパレコウイルス3型が検出され、2012年に論文発表されました。それ以降、日本各地からパレコウイルス3型による筋痛症の症例報告が相次いでいます。
パレコウイルス3型による成人流行性筋痛症のゲシュタルトをまとめます。高熱とともに近位筋優位の筋痛が生じ、それによる筋力低下や握力低下を生じます。とくに男性では睾丸痛が特徴的にみられ、本疾患を疑う契機になります。採血ではCKが上昇します。症状は発症から2~3日でピークに達し以降1~2週間の経過で急速に回復して予後は良好です。
感染した小児が家庭にウイルスを持ち込むことで親が感染しその一部が筋痛症を発症していると考えられます。本症例のように明らかなsick contactがなくとも、無症候の小児から感染し家庭内に伝播する可能性が示唆されています。
国立感染症研究所から小児のパレコウイルス月別分離検出の全国集計データが出されています。赤棒がパレコウイルス3型を示しており、2014年までは2~3年毎に、2016年以降は毎年、夏季に流行しています。2020年からはCOVID-19のパンデミックの影響で激減していますが、2022年には再び夏季に流行しており、本症例はこの時期に発生していました。
おわりに
学会前日には、徳島大学脳神経内科・和泉唯信教授から会食の席にお招きいただき、楽しい時間を過ごさせていただきました。
和泉先生、ごちそうになりありがとうございました。