「そうだ、生しらすを食べに行こう!」
当直明けの祝日の朝、梅雨明けの青空を見上げながら、ふと思い立った。
以前ググって得た情報では、徳島県阿南市の蒲生田(かもだ)岬には温泉施設があり、その食堂で生しらすが食べられるらしい。
ハンドルを握った私は、軽い気持ちで、勤務先から直接目的地へと向かった。ところが、である。
道中は対向困難な細いくねくね道が延々と続いていた。
車窓からちらちら見える海の風景を堪能する余裕などまったくない。
「どうか対向車が来ませんように」
ただひたすらそう祈りながら、運転操作に集中するほかなかった。
正直いって、気持ちがへこんでいた。
ところが、である。
ようやく目的地に着いたとき、それまでの苦労がすべて報われる瞬間が訪れた。
眼前には想定外の絶景が広がっていたのだ。かもだ岬温泉は、四国最東端である蒲生田岬から西に約2キロの高台にあり、紀伊水道の景色が一望できる。
さらに対岸に臨む椿泊(つばきどまり)地区は、江戸時代に徳島藩の海上方として参勤交代などで輸送を担当した阿波水軍の大将、森甚五兵衛の本拠地として栄えた歴史的な集落で、現在は徳島県有数の漁港となっている。「こんな場所が徳島にあったのか!」
思いがけない感動にしばしひたったあと、温泉施設内の食堂「かもだカフェ」へと向かった。
さっそくメニューを確認。
「はも天丼」に一瞬心揺らいだが、目的の「生しらす丼」を定食でオーダーした。蒲生田岬の沖合で捕れた新鮮しらすは格別だった。
食後にはもちろん温泉へ。絶景を眺めながら入る温泉は、地下1,600mからくみ上げた源泉100%の湯で、弱アルカリ性で肌ざわりがさらっと柔らかい。
「苦労したけど、ここまで来て本当によかった~」
何事も“No pain, no gain”ってことなんである。
身も心もリフレッシュした私は、ふたたび細いくねくね道を通って家路についた。