はじめに
お口にはさまざまなトラブルが起きます。
多くはお口の中に原因があり歯科口腔外科的な対応で解決しますが、なかには全身疾患の一部症状としてお口のトラブルが生じることがあり内科的な対応が必要になります。
お口のトラブルの背後に潜む全身疾患を発見するコツは、お口以外の情報(病歴、口腔以外の身体所見、検査所見)のなかに手がかり(特徴的なパターン)がないか探す努力をすることです。
今回口腔外科学会雑誌10年分(2010-2019)と一部顎関節学会雑誌の症例報告を通読し、お口にトラブルを起こした全身疾患について特徴的なパターンを抽出し整理してみました。
お口のトラブルに潜む全身疾患
お口のトラブルを症候別にわけ、診察室で聞くべき病歴、診るべき身体所見、検査すべき項目とそこからどのような全身疾患を疑い、迫り、治療するかについてまとめます。
口内炎が治らない
パターン1
(聞く)関節リウマチでメトトレキサート(MTX)内服中
(診る)口内炎のみ
(検査する)採血で汎血球減少、肝機能障害を確認
(疑う)MTX中毒
(治療する)ただちにMTX中止+ロイコボリンレスキュー
パターン2
(聞く)関節リウマチでメトトレキサート(MTX)内服中
(診る)発熱、頸部リンパ節腫大、咽頭・扁桃や皮膚の潰瘍
(検査する)胸部レントゲンで異常肺陰影、採血でLDH・CRP・sIL-2R高値を確認
(疑う)メトトレキサート関連リンパ増殖性疾患(MTX-LPD)
(迫る)病変部の生検でリンパ腫(EBウイルス陽性)を確認
(治療する)ただちにMTX中止、2週間経過しても退縮傾向がない場合は化学療法を考慮
パターン3
(聞く)歯肉の激しい痛み
(診る)発熱、歯肉の発赤・腫脹・潰瘍形成(strawberry gums)、皮膚潰瘍
(検査する)胸部レントゲンで両肺野に多発結節影、採血でCRP高値・PR3-ANCA陽性・Cre上昇を確認
(疑う)多発血管炎性肉芽腫症(GPA)
(迫る)病変部の生検で肉芽腫形成性の壊死性血管炎を確認
(治療する)高用量ステロイド(PSL1mg/kg/日)とシクロフォスファミド(CY)の併用を基本とする
パターン4
(聞く)性交渉歴(相手・オーラルセックスの有無・コンドーム使用の有無・性感染症の既往など)
(診る)手掌・足底の発疹、外陰部潰瘍、ぶどう膜炎、脱毛
(検査する)採血でRPR陽性・TPHA陽性を確認
(疑う)梅毒
(迫る)RPRが16倍以上・TPHA陽性では治療と届け出が必要
(治療する)アモキシシリン(250mg)8cap分2に加えプロベネシド1gを1日1回14日間
パターン5
(聞く)陰部痛、眼症状(痛い・まぶしい・見えにくい)、関節痛、腹部症状(腹痛・下痢・下血)、下肢痛、頭痛
(診る)発熱、皮疹(結節性紅斑様・毛嚢炎様・針反応)、外陰部潰瘍、ぶどう膜炎、関節炎、下腿浮腫
(検査する)採血でCRP高値・抗核抗体などの自己抗体は陰性・HLA-B51陽性、内視鏡で回盲部に境界明瞭な深掘れ潰瘍、下肢静脈エコーで深部静脈血栓症を確認
(疑う)ベーチェット病
(治療する)粘膜皮膚病変・関節炎に対しては局所ステロイド投与+コルヒチンが第一選択、眼病変(後部ぶどう膜炎)・血管病変・消化管病変・神経病変を有する場合は全身ステロイド投与+免疫抑制薬or TNF阻害薬
パターン6
(聞く)天疱瘡の既往
(診る)皮膚の水疱とびらん
(検査する)採血で抗デスモグレイン1・3抗体陽性を確認
(疑う)尋常性天疱瘡
(迫る)皮膚・粘膜生検で表皮細胞間接着障害(棘融解)による表皮内水疱やIgGの表皮細胞間の沈着を確認
(治療する)ステロイド内服
パターン7
(聞く)薬疹の既往、どのような薬をいつから飲み始めいつから症状があらわれたか
(診る)発熱、眼・口唇から口腔・外陰部などの粘膜皮膚移行部にびらん・潰瘍、皮膚の紅斑・水疱・びらん
(検査する)皮膚生検で表皮の広範な壊死を確認
(疑う)スティーブンス・ジョンソン症候群
(治療する)中止可能な薬剤をすべて中止+高用量のステロイドまたはステロイドパルス療法、早期に眼科コンサルト(失明予防)
口の中の出血がとまらない
パターン1
(聞く)突発的な出血症状
(診る)皮下出血、筋肉内出血
(検査する)採血でAPTT延長・PT-INR正常、APTTクロスミキシング試験でインヒビターパターンを確認
(疑う)後天性血友病A
(迫る)採血で第Ⅷ因子活性低値・第Ⅷ因子インヒビター陽性を確認
(治療する)バイパス止血療法+免疫抑制療法
口が開かない
パターン1
(聞く)頭皮痛(髪の毛をくしでとかすと痛い)、咀嚼時のあごの痛み、視力障害(視野がくもる)、四肢近位部のこわばり
(診る)発熱、浅側頭動脈の圧痛・拍動の低下
(検査する)採血でCRP高値、血管エコーで側頭動脈周囲のHaloサイン(浮腫性変化)、MRIで活動期の血管壁肥厚を確認
(疑う)巨細胞性動脈炎(GCA)
(迫る)側頭動脈の生検で多核巨細胞を伴う肉芽腫性動脈炎・内弾性板の破綻を確認
(治療する)高用量のステロイド内服
パターン2
(聞く)顎関節部の疼痛
(診る)顎関節以外の関節に腫脹圧痛
(検査する)採血でリウマトイド因子(RF)・抗CCP抗体陽性、顎関節MRIで骨髄浮腫
(疑う)関節リウマチ
(治療する)禁忌でなければまずMTXを開始する
おわりに
今回お口のトラブルに潜む全身疾患をまとめてみました。
わかったことは、ほとんどが免疫疾患であること、なかには治療しないと死に至る怖い病気も含まれていることです。
ですから、歯科×内科の緊密な連携が患者さんの人生やいのちを救うことになります。
たかがお口のトラブル、されどお口のトラブルです。
日常診療のお役立ち情報としてご参考にしていただければ幸いです。