はじめに
偽痛風は高齢者に急性関節炎を起こす疾患として重要です。
これまでリウマチや痛風の既往がない60歳以上の方が、急に関節が腫れて熱を持ち激しい痛みを伴う場合、偽痛風の可能性があります。
教科書的な偽痛風
有名な痛風は、高尿酸血症を背景に関節内に尿酸塩の結晶が析出することで生じる関節炎です。
一方偽痛風は、加齢を背景に関節内にピロリン酸カルシウムの結晶が析出することで生じる関節炎です。
どちらも結晶が「火種」となって関節炎を起こすことから、結晶性関節炎と呼ばれます。
偽痛風の典型的なパターンは、高齢者の急性膝関節炎です。
しばしば38℃を超える発熱をきたし、採血では白血球・CRP高値を認めます。
関節のレントゲンでは、結晶沈着を反映して線状の関節軟骨の石灰化像(矢印)を認めます。
確定診断のためには関節穿刺を行い、関節液中の白血球に貪食された棒状・方形状の結晶を確認します。
同時に関節液のグラム染色・細菌培養を提出して、化膿性関節炎を除外します。
偽痛風と正しく診断できれば、ステロイド関節内注射や痛み止め(NSAIDs)内服により速やかに改善します。
偽痛風の発作はいったん消退しても再びくり返すことが多く、再発予防策(コルヒチン0.5mg/日内服)を講じることも大切です。
現場の偽痛風
臨床現場では、偽痛風が「くり返す感染症」として誤診されているのを、よく目撃します。
偽痛風らしさを構成するのは、
高齢者 + 炎症所見(発熱、白血球・CRP高値)+ 関節炎
の組み合わせです。
しかし実際の臨床現場では…
- 患者さんが認知症などで関節痛を訴えない
- 医師がそもそも関節所見をとらない・とれない
- 深部関節(頸椎や股関節など)に炎症を起こした場合、関節所見をとれない
- 手や足関節の激しい偽痛風発作は一見「蜂窩織炎」そっくりにみえる
などの理由で関節炎の存在が見逃されます。
すると高齢者 + 炎症所見の組み合わせから、
- 「誤嚥性肺炎」
- 「尿路感染症」
- 「蜂窩織炎」
など高齢者に好発する細菌感染症と判断され、抗菌薬が投与されます。
偽痛風発作は時間経過とともに自然軽快する傾向があり、
これがあたかも「抗菌薬が効いた」ように見えます。
炎症所見はその後も再燃をくり返し、
そのたびに抗菌薬が投与され、
「くり返す感染症」という誤診が完成します。
ここで自験例を紹介します。
上段の「」内が前医からのふれこみで、下段が最終診断です。
認知症の方で、首を動かすのを嫌がる点から、頸椎偽痛風に気付きました。
診断は、CTにおいて軸椎(首の2番めの骨)の歯突起周囲に石灰沈着(矢印)を証明できればほぼ確定します。
認知症の方で、右股関節を動かすと痛がる点から、股関節偽痛風に気付きました。
CTでは右股関節において関節面の石灰化(矢印)を認めます。
胆嚢炎で抗菌薬投与中に、発熱と右手の腫れが出現してきた点から、手関節偽痛風に気付きました。
右手関節へのステロイド関節内注射により速やかに改善しています。
とくに「くり返す誤嚥性肺炎」と前医で診断されていた男性患者さんは、
絶食と輸液で管理されており、かなり廃用が進行していました。
くり返す炎症所見が偽痛風由来と判明してからは、
コルヒチン導入で再発予防を図り、
経口摂取を再開しました。
今では発熱することなく、1日3回の食事をすべておいしく召し上がり、さらに離床を目指して鋭意リハビリ中です。
おわりに
「くり返す感染症」のなかに、偽痛風の見逃しあり
つつみのクリニカルパール
偽痛風を正しく診断するためにも、つねに関節所見をとる姿勢が大事です。