第4回(最終回)です
よくならない「PMR」
40代女性の話です。
3か月前から両膝、腰まわり、前胸部に痛みが出現し改善しないため、近くの整形外科クリニックを受診されました。
採血で炎症反応を認め、「リウマチ性多発筋痛症(PMR)」の診断でステロイド内服が開始されました。
しかしその後も病状は一向に改善せず、日常生活にも支障をきたすようになり、
セカンドオピニオンを求めて、私の外来を受診されました。
診察では…採血では…PMRらしい点を挙げると、
- 立ち上がり動作が困難
- 腰椎棘突起部と両側大転子部(滑液包がある部位)に圧痛を認める
- CRP陽性
- 血液培養陰性
- 血管炎やリウマチのマーカーは陰性
一方PMRらしくない点を挙げると、
- 発症年齢が若すぎる
- 首・肩には症状がない
- ステロイド内服が無効
- 左胸鎖関節に腫脹・圧痛を認める
PMRの本質は、ステロイド内服だけで速やかによくなる点にあります。
ステロイドが効いていない時点で、そもそもPMRではありません。
真犯人は別にいる
こころのつぶやき
PMRらしくない点に着目する
本症例の胸部MRIでは…両側の胸鎖関節に炎症(T1で黒くSTIRで白くうつる)を認め、
胸鎖関節炎の存在を確認しました。
胸鎖関節炎は、ふつうPMRや関節リウマチではみられませんが、
早期の脊椎関節炎でよくみられることが報告されています(J Rheumatol 2012; 39: 1844-1849)。
これ(胸鎖関節炎)はおそらく犯人の尻尾
こころのつぶやき
再評価
脊椎関節炎の特徴を整理します。
[病歴]
・45歳未満で3か月以上持続する腰背部痛
[関節所見]
・画像上の仙腸関節炎(レントゲン、MRI)
・下肢優位の末梢性関節炎
・付着部炎(とくに踵)
・指趾炎(ソーセージ指)
[関節外所見]
・CRP高値
・ぶどう膜炎
・皮膚病変(乾癬、爪病変、掌蹠膿疱症)
・クローン病または潰瘍性大腸炎
・NSAIDsに良好な反応性
[遺伝的背景]
・HLA-B27陽性
・脊椎関節炎の家族歴
本症例において、脊椎関節炎らしさを探ってみると…
HLAのタイピングではB27陰性でした。
単純レントゲンでは、仙腸関節に異常はありません。
しかし仙腸関節のMRIを撮ると、炎症(T1で黒くSTIRで白くうつる)を起こしていることが分かりました。
さらに股関節のMRIを撮ると、両側大転子部に炎症(STIRで白くうつる部分)を認め、
それは滑液包ではなく、付着部(大殿筋と中殿筋が大腿骨に付着する部位)に一致していました。
つまり大転子部の圧痛の原因は、PMRでよくみられる滑液包炎ではなく、付着部炎だったのです。
以上、本症例の脊椎関節炎らしい点をまとめると、
- 45歳未満で3か月以上持続する腰背部痛
- 画像上の仙腸関節炎(MRI)
- 両膝関節炎(既往)
- 付着部炎(大・中殿筋の付着部)
- CRP高値
となり、ASAS分類基準に基づいて、
体軸性脊椎関節炎と最終診断しました。
ついに犯人を捕らえた
こころのつぶやき
治療経過
治療経過です。
当初は病態がよくわからず、
難治性のPMRとしてステロイドの増量と抗リウマチ薬(MTX)の併用で対応しましたが、
効果は全くありませんでした。
体軸性脊椎関節炎の診断がついてからは、
第一選択薬の痛み止め(NSAIDs)を導入し、
腰まわりの痛みはかなり楽になりました。
しかし前胸部痛や炎症反応は残存し、疾患活動性は高いまま(BASDAI5.2)でした。
そこで特効薬であるTNF阻害薬(アダリムマブ皮下注)を導入したところ、
投与した次の日の朝から症状はほぼ消失し、
一発で寛解しました。
有効とされる薬剤(NSAIDsやTNF阻害薬)への良好な反応性からも、
体軸性脊椎関節炎らしさを確認することができました。
一件落着
こころのつぶやき
まとめ_4
- よくならない「PMR」はPMRじゃない。
- PMRらしくない点に着目して再評価を行う。
- 前胸部痛を伴って若年で発症するPMR様症状をみたら、体軸性脊椎関節炎を疑う。
おわりに
自験例をベースに、これまで全4回にわたって、
PMR診療の基本からディープなところまでを紹介させていただきました。
リウマチ診療はもちろん、PMR診療も実に奥深いものがあります。
そのことを少しでも感じ取って頂けたなら幸いです。
(おわり)