リウマチ膠原病

備える!リウマチ診療

はじめに

リウマチ診療では、お薬の力で異常な免疫を抑えて関節炎の改善を目指します。

しかしこのことは同時に、リウマチのお薬そのもので身体にダメージが生じたり(薬の副作用)、正常な免疫も一緒に抑えてしまって体の中で封印されていた病原体(ウイルス、結核菌、カビの仲間など)が暴れだしたり(再活性化といいます)、リウマチの関節以外の問題が発生したり(リウマチ肺の増悪など)と、「合併症」というあらたなリスクを抱え込むことになります。

合併症」のなかには命を落としてしまうものもあり、その対策は治療と同じくらい重要です。

そこで、「合併症」が起こってくるパターン対処法をあらかじめ整理しておき、積極的に備えておくことが大切になってきます。

いざ「合併症」が発生した際には、より早く気づいてすぐに対処することで、ダメージを最小限におさえることができるからです。

これは防災の考えと同じです。

私は「合併症とその対処法」を大きく3つに分けて整理しています。

薬剤の副作用:原因薬剤の中止
潜伏病原体の再活性化:抗微生物薬の投与
リウマチの関節外病変:個別に対応

これまでの経験から、リウマチ診療でとくに見落とされやすい「合併症」をとりあげて、症候別に整理したいと思います。

症候から疑う、見落とされやすい合併症

原因不明の発熱が続いたら

以下の疾患を鑑別します。

サイトメガロウイルス(CMV)再活性化

成人の大部分(90~95%)はすでにCMVの不顕性感染をうけており、広範囲な臓器にウイルスが潜伏しています。

免疫が強く抑制されると、ウイルスが再活性化されて内臓に炎症を起こしてきます。

自然経過としては、原因不明の発熱や炎症がしばらく続いたあと、突然消化管潰瘍による大量下血や間質性肺炎による急性呼吸不全を起こして急に亡くなることがあります。

リウマチ治療中に抗生剤が効かない発熱が続き、血小板減少LDH高値肝障害を認めたら本症を疑います。

CMV抗原血症検査(C10/C11 or HRP-C7)を提出して陽性細胞が確認できれば抗ウイルス薬(ganciclovir)で治療します。

メトトレキサート(MTX)関連リンパ増殖性疾患

発症機序については定説は得られていませんが、MTX投与中は免疫抑制状態となり、潜伏していたEpstein-Barrウイルス(EBV)が再活性化して感染リンパ球の増殖が起こると考えられています。

MTX投与中原因不明の発熱が続き、頸部リンパ節腫大皮膚病変口腔・咽頭病変異常肺陰影LDH・CRP・sIL-2R高値を認めたら本症を疑います。

自験例を示します。

MTX6mg/wでリウマチ治療中の90代女性です。

原因不明の発熱と衰弱の進行で紹介されました。

(A) 口腔の潰瘍性病変、(B)Aの潰瘍辺縁(丸印)の生検病理組織像、核異型を示すリンパ球が粘膜下に多数浸潤している、(C) 肺多発結節影と血性胸水貯留、(D) 皮膚潰瘍

対処としては、まずはMTXをすぐに中止し経過をフォローします。

MTX中止のみで約半数の症例で病変が消失しますが、2週間経過しても退縮傾向がない場合には、病変部の生検を積極的に考慮します。生検によってリンパ腫と診断された場合には化学療法を考慮します。

結核

自験例を示します。

MTX4mg/wでリウマチ治療中の80代女性です。

原因不明の発熱と衰弱の進行で紹介されました。

MTX投与中にも結核は発症します。

肺結核は肺内に病変をつくるので気づきやすいですが、肺外結核は「胸膜炎・膿胸」「リンパ節炎」「骨関節結核(椎体炎・関節炎)」などリウマチ膠原病と似た症候を呈することから、積極的に疑わないと見逃します

可能なかぎり、感染が疑われる部位の検体(組織・体腔液など)を採取して抗酸菌検査(塗抹・培養・核酸検査)病理検査に提出することが大切です。

急に間質性肺炎が起こったら

もともとリウマチ肺(リウマチに伴う間質性肺炎)がある患者さんが、MTX内服中急性間質性肺炎を起こすことがあります。

自験例を示します。

MTX6mg/wでリウマチ治療中の70代女性です。

急性呼吸不全を起こして紹介されました。

このような状況では、以下に挙げる複数の原因が考えられます。

MTX肺炎

MTXによる薬剤性肺炎です。

治療はMTXをただちに中止し、中等量~高用量のステロイド(PSL0.5~1mg/kg/日)を投与します。酸素吸入を要する場合はステロイドパルス療法(mPSL500~1,000mg/日、3日間連続点滴静注)を併用します。

ニューモシスチス肺炎

潜伏しているニューモシスチスという真菌が起こす肺炎です。

検査は血中β-D-グルカン測定、喀痰・誘発喀痰で一般菌培養とともにニューモシスチスPCR検査を提出しますが、実際は痰がほとんど出ないため、血中β-D-グルカン上昇で判断することが多いです。治療はステロイド + スルファメトキサゾール・トリメトプリム(ST合剤6~9錠/日、分3)投与で行います。酸素吸入を要する場合はステロイドパルス療法を最初に加えます。

CMV肺炎

潜伏しているサイトメガロウイルス再活性化して起こる肺炎です。

検査はCMV抗原血症検査を提出し、陽性細胞が確認できれば抗ウイルス薬(ganciclovir)投与で治療します。

リウマチ肺の急性増悪

リウマチ肺が急に悪化することがあります。

MTX中止+ステロイド大量+ST合剤投与による治療を行ってもさらに病状が悪化する場合に疑います。免疫抑制薬の追加(IVCY)などを行いますが、死亡率70%前後で予後は不良です。

本ケースの難しさは、呼吸不全に対してすぐに治療を始めなければならないのに、その原因が絞り込めていないという点にあります。

実際の対応を示します。

まず原因の絞り込みに必要な検査をすべて提出したのち、考えられる原因をすべてカバーする治療(MTX中止+ステロイド大量+ST合剤+ganciclovir投与)を開始しました。

治療開始後にβ-D-グルカン高値陽性、サイトメガロウイルス抗原血症陰性の結果が返ってきたので、ニューモシスチス肺炎と最終診断して、不要な治療を中止しました。

患者さんは治療にすみやかに反応して呼吸不全から脱出し、元気に歩いて退院されました。

皮膚潰瘍を認めたら

以下の疾患を鑑別します。

血管炎

血管炎は全身に張りめぐらされている血管の壁に炎症を起こし、さまざまな臓器障害を引き起こす疾患群です。

血管炎の症状には、障害血管のサイズにかかわらずみられる共通症状(全身症状)と障害血管サイズに応じてみられる特徴的な症状があります。

血管炎を診断する際には、特徴的な症状から障害されている血管サイズを想定し、そのサイズの血管炎の症状が他にないか、病歴・身体所見、血液検査・尿検査、必要であれば画像検査で調べることとなります。

自験例を示します。

生物学的製剤でリウマチ治療中の70代男性です。

関節炎がひどく、最近は労作時の息切れや右手のしびれが出てきたとのことで、私の外来を受診されました。

もろもろ評価したところ、関節炎以外には肺病変(間質性肺炎)、皮膚病変(皮下結節紫斑・皮膚潰瘍)、末梢神経病変(多発性単神経炎)と小~中型血管サイズの血管炎症候を認めました。

さらに採血ではリウマトイド因子著明高値低補体血症を認め、最終的に血管炎を合併したリウマチ(悪性関節リウマチといいます)と診断しました。

血管炎治療の根幹は高用量のステロイド投与です。

本ケースでは高用量ステロイド+免疫抑制薬(タクロリムス)で再治療を行い、無事寛解導入できました。

下肢静脈還流障害

自験例を示します。

リウマチ治療中の70代女性で、膝関節障害のためふだんからシルバーカーを使用されている方です。

以前から利尿剤抵抗性の両下腿浮腫がありましたが、左下腿後面にあらたに皮膚潰瘍ができたとのことで紹介されました。


もろもろ評価したところ、心不全、腎不全、ネフローゼ症候群、深部静脈血栓症の所見はありませんでした。

ここで下肢の静脈系について知識を整理します。

下肢の静脈血は重力に逆らって心臓に戻っており、これを下肢静脈還流といって、逆流を防ぐ静脈弁下腿筋の筋ポンプ作用によって支えられています。

一方、表在静脈の弁が壊れて静脈逆流を起こしたり、深部静脈が血栓で閉塞したり、筋ポンプ作用が低下したりすると、いずれも静脈高血圧から下腿浮腫をきたすようになり、それぞれ、下肢静脈瘤深部静脈血栓症廃用性浮腫と呼ばれます。

本ケースでは膝関節障害によって下腿筋が著明に萎縮しており、廃用性浮腫がメインと考えられました。

皮膚の血流うっ滞は皮膚のバリア機構を低下させてうっ滞性皮膚炎を起こし、軽微な外傷で容易に潰瘍を形成します。

廃用性浮腫を含む下肢静脈還流障害の治療の基本は、弾性ストッキングや弾性包帯による圧迫療法生活指導です。

生活指導の要点は、適度に歩いたり、つま先の上げ下ろしを行ったりして下腿筋を意識して動かすこと、休む時には足を垂らさずに挙上すること、むくんだ皮膚は傷みやすいのでしっかりスキンケアを行うことです。

治療経過を示します。


弾性包帯による下腿の圧迫と下肢挙上のみで、浮腫は比較的すみやかに改善し潰瘍も治癒しました。

リウマチ患者さんに限らず、下肢静脈還流障害による慢性浮腫の方は本当に多く、同様の対応で改善が得られます。

メトトレキサート関連リンパ増殖性疾患

既出です。

急に誘因なく腰臀部痛が出てきたら

骨盤の脆弱性骨折

自験例を示します。

他院でリウマチ治療中の80代女性です。

2週間前に急に誘因なく左臀部痛が出現して歩けなくなり、近くの整形外科病院に入院されました。

レントゲンでは骨折は指摘されずリハビリを1週間行って退院したのですが、その後も「痛みがよくならず歩けない」とのことで、私の内科外来を受診されました。

私はその病歴を聞いてピーンと閃き、すぐに骨盤のレントゲンと一緒に骨盤のCTもオーダーしました。

予想通り、レントゲンでは見えない仙骨骨折をCTで確認して、治療のため再度入院していただきました。

床上安静、疼痛コントロール、テリパラチドの連日皮下注射を開始して、入院2週後からは歩行訓練を開始、入院4週後には元気に歩いて退院されました。

リウマチ患者さんの骨折の特徴として、骨盤と下肢の骨折が全体の半分を占め、その65%が単純レントゲンではまったくみえず、76%は日常生活動作のみで生じた脆弱性骨折であったことが、本邦から報告されています(Mod Rheumatol 2008; 18:170–176)。

つまりリウマチ患者さんは、日常生活のなかで自然に骨盤骨折が起き、病院を受診してもレントゲンにうつらないため、「よくわからない疼痛」として骨折が放置される傾向があります。

そのまま歩行や運動を続けていると、骨折部の転位や変形をきたして病状が悪化します。

診断は、一番はMRI、少しでも転位があればCT、疼痛発生から3週以上の時間をおいてからは骨シンチグラフィーが役立つとされています。

別のリウマチ患者さんのケースでは、自家用車の後部座席に座っていたら急に左腰部痛が出現して歩けなくなり、整形外科でも原因がわからず紹介されてきたことがあります。

原因は左腸骨翼骨折でした。

病歴から疑うことが大切です。

おわりに

リウマチ診療では、つねに安全性有効性の両方を確認しながら治療を行います。

もしもの「合併症」に対してしっかり「備える!」からこそ、寛解を目指してしっかり「攻める!」ことができます。

しっかり備えて、しっかり攻める

これこそリウマチ診療の本質だと私は考えています。