リウマチ膠原病

攻める!リウマチ診療

これまでの経験を通じて蓄積してきたリウマチ診療のエッセンスを凝縮してお伝えします。

リウマチ診療の本質

いきなりですが、リウマチ(RAと略します)診療の本質は、正しい診断に基づいてしっかり治療を行い、まずはよくなること(寛解といいます)、そしていい状態を維持しながら治療薬を最小限度まで減らしていくことにあります。

言葉にすると簡単ですが、実際のところ、この正しい診断というのがすごく難しい。

RAらしさを多方向から評価検討して最終判断するスキルが求められるからです。

診断を間違えるとどうなるか?

つまずき症例を紹介します。

症例は60代女性です。多関節痛を主訴に前医を受診し、「関節リウマチ」の診断でRA治療が開始されました。しかし治療開始後も関節症状は改善しないばかりか、あらたに労作時息切れ、全身倦怠感が出現増悪するようになり、ついには救急搬送される事態となります。

搬送先では、肺高血圧症と腎障害をきたしていることが判明し、そのまま入院となりました。手の診察では、確かにRAに特徴的なスワンネック変形や尺側偏位を認めますが、レントゲンではそれらに見合うような関節破壊はみられず、さらに通常RAではみられない手指のレイノー現象や指尖部潰瘍が確認されました。RAらしさよりも膠原病らしさが強く、追加した検査では抗核抗体高値陽性と低補体血症を認めたことから、最終的に全身性エリテマトーデス(SLE)へと診断が変更されました。

RAの治療をやめてSLEの治療を開始したところ、ようやく病状が改善しました。

実はSLEは、手首や手指関節を中心に全身の関節痛・関節炎で発症することが多く、しかもジャクー関節症とよばれる関節の変形も起こすことから、よくRAと誤診されます。

SLE以外にもRA mimic(リウマチもどき)はたくさんあり、日本リウマチ学会からRA鑑別疾患リストとして発表されています。

RA mimicRAと誤診されてしまうと、本当は膠原病なのに不適切なRA治療が導入され病状がさらに悪化したり(つまずき症例)、本当は勝手によくなるウイルス感染症なのに不必要なRA治療が開始されたりと、患者さんの不利益に直結します。

だからこそ、正しい診断はリウマチ診療の大前提となります。

現時点でRAを確実に診断できる「診断基準」はありませんが、この基準を満たす患者をRAとみなそうという「分類基準」があります。

この2010ACR/EULARの分類基準では、小関節が多数腫れていたり、RAマーカーであるリウマトイド因子(RF)や抗CCP抗体(ACPA)が高値陽性といった、よりRAらしい項目に高い点数が設定されており、合計6点以上でRAと診断するようになっています。

しかし、日常診療でよくみられるように、関節が1か所しか腫れていなかったり、RAマーカーが陰性だと、この分類基準ではRAと診断できません。

そんなときはもうひと手間をかけて、関節MRIエコーで評価したり、関節外所見に着目してRA mimic(リウマチもどき)をていねいに除外することが必要になってきます。

これまでの知見から、RAは関節近傍の骨髄内の炎症としてはじまり(MRI骨髄浮腫として評価)、その後炎症が関節滑膜にも波及して潜在的な滑膜炎となり(関節エコーパワードプラ グレード2以上の滑膜肥厚として評価)、そこからさらに進行すると診察で評価可能な関節の腫脹をきたすと考えられています。

RAっぽいのに2010ACR/EULARの分類基準を満たさない場合、関節そのものをMRIエコーで評価することで、従来の診察ではとらえられなかったRAらしさをより高感度にとらえることができ、正確な診断に役立ちます。

ところでRA mimicの大部分はウイルス感染症膠原病であり、いずれも特徴的な症候パターンを呈します。症候パターンは一見複雑ですが、因数分解して関節炎のパターン、皮疹のパターン、内臓障害のパターン、自己抗体を含む検査異常のパターンのかけ算の形に整理してしまえば、全体像が把握しやすくなります。

RARA mimicの症候パターンを比較すると、関節炎のパターンはそもそも似通っており鑑別が困難ですが、関節以外の所見は疾患ごとに特徴的な相違点があり、ここに着目して鑑別を行います。

たとえば、抗ARS抗体という自己抗体が陽性の人は、筋炎を中心として間質性肺炎、多発関節炎、レイノー現象、機械工の手とよばれる皮疹を高頻度に併発することから抗ARS抗体症候群とよばれています。

皮膚筋炎で最も多い病型であるだけでなく、RA mimicとしても有名です。本症候群では、筋炎がつねに先行するとは限らず、間質性肺炎と多発関節炎が先行した場合にはRAそっくりのプレゼンテーションになり、よくRAと誤診されます。

しかし、ふだんから関節外所見をしっかり確認する習慣があれば、通常RAではみられないレイノー現象や特徴的な皮疹の存在に気づき、正しい診断に到達することができます。

関節外所見のなかでもとくに大切なのが、レイノー現象爪上皮出血という皮膚所見です。これらがみられると膠原病らしさがぐっと高まります。

膠原病では全身にさまざまな血管障害が生じることが特徴で、それに起因する所見が膠原病らしさとして体の上に現れてきます。

たとえば、指先に向かう血管に内膜肥厚などの潜在的な障害が生じると、寒冷刺激や精神的緊張などで血管が収縮したとき指先が虚血となり、皮膚の色調変化が起こります。これがレイノー現象です。

また爪の根本の甘皮にはループ状の毛細血管が並んでいますが、血管障害があるとここから出血して甘皮に黒い点が出てきます。これが爪上皮出血です。

さらに同様の障害が肺の血管に生じると肺高血圧症、腎の血管に生じると腎クリーゼ、腸の血管に生じると偽性腸閉塞をきたし、膠原病らしい臓器病変を呈してきます。

肺高血圧症の病態

リウマチ診療のリアル

攻める!リウマチ診療」とは、RAの正確な診断に努め、それを根拠に迷いなく治療を強化し、速やかな寛解導入を実現するという、自らの診療スタンスのことです。

しっかり見極めて、ガツンと攻める」をキャッチフレーズに、つねに最速での寛解導入を目指しています。

ところで私のお気に入り作家・星新一の作品に、「ノックの音が」という短編集(新潮文庫)があります。15個すべての話が「ノックの音がした」の一文で始まりながら、すべて異なる事件へと展開していき最後は意外な結末を迎えます。

じつはこの星作品に似た感じで、「手がぱんぱん」という同じ主訴で多くの方が受診されながら、精査の過程でそれぞれ異なる病態であることが判明していき最後は意外な診断に至ることを経験してきました。ここでは、「ノックの音が」風に5個のモデルCaseを取り上げながら、リウマチ診療のリアルな現場をお伝えしたいと思います。

なお、取り上げたCaseは実際の症例をベースにしていますが、プライバシー保守のため主旨を変えない範囲で改変し、個人情報の保護に細心の注意を払っていることにご理解ください。

Case 1 60代女性「手がぱんぱん」

60代の女性です。

2カ月前から急に手足が腫れて痛みが続くようになり、複数の医療機関を経て、私の外来を受診されました。

初診時の所見です。手背足背に圧痕を伴うほどの著明な腫脹を認め、いわゆる手足がぱんぱんの状態でした。当初何が起こっているのか皆目見当がつきませんでした。

手がかりを求めて手足のレントゲンを撮りましたが、明らかな異常は認めませんでした。

採血では炎症反応が上昇しており、RAマーカーではリウマトイド因子(RF)は陰性、抗CCP抗体は低値陽性でした。一方、糖尿病や甲状腺機能異常の合併はなく、また全身性強皮症に特異的な自己抗体は陰性でした。

手がかりを求めて手関節のMRIを撮ったところ、RAらしさである手根骨の骨びらんとそれに一致した骨髄浮腫を確認できました。

手関節の横断像では、背側伸筋腱と掌側屈筋腱の腱鞘滑膜炎の存在も確認できました。

関節エコーでの評価でも、手関節とMCP関節において、RAらしさであるパワードプラ グレード2の関節滑膜炎を認めるとともに、伸筋腱と屈筋腱の腱鞘滑膜炎も確認できました。

以上をまとめると、本Caseの手は腱鞘滑膜炎+びらん性手関節炎を起こしており、最終的に腱鞘炎を合併した早期RAと診断しました。

治療経過です。

ぱんぱんの手の正体がRAとわかりましたので、RA用の治療をしっかり行いました。少量ステロイドとメトトレキサート(MTX)の内服を開始し、腫脹した手関節やMCP関節へステロイド関節内注射をしながら、順次イグラチモド(IGU)の追加とMTX増量を行っていきました。

結果、短期間で症状をとることができました。

当初認めていた手指の屈曲固縮も、薬物療法に手指のストレッチと可動域訓練を併用することで、著明に改善しています。

Case 2 70代男性「手がぱんぱん」

70代の男性です。

2年前に他院でRAと診断され、以降PSL7.5mg+MTX8mg/wでずっと治療されているのによくならないとのことで、私の外来を受診されました。

初診時の所見です。手背足背がぱんぱんの状態でした。

手足のレントゲンでは、RAらしさである骨びらんははっきりしませんでした。

RAの診断は本当にあっているのか?

ゼロベースで再評価することにしました。

採血では炎症反応の上昇を認め、RAマーカーはリウマトイド因子と抗CCP抗体ともにものすごい高値でした。

手関節をMRIで評価したところ、RAらしさである手根骨の骨びらんとそれに一致した骨髄浮腫多発していました。

手関節の横断像では、手根骨周囲組織の増大を認め、一方で腱鞘滑膜には肥厚は認めませんでした。

以上をまとめると、本Caseの手は進行したびらん性手関節炎が主体であり、最終的にコントロール不良のRAと診断しました。

治療経過です。

ぱんぱんの手の正体が治療に反応していないRAとわかりましたので、RA治療をさらに強化することにしました。腫脹した手関節へステロイド関節内注射を行いながら、前医処方をベースにMTX増量、IGU追加を行いました。

結果、症状はすっかりとれて、当初著明に低下していた握力も完全に回復しています。

Case 3 40代女性「手がぱんぱん」

40代の女性です。

年末から1か月の経過で手足の腫脹疼痛、多関節痛、39℃近い発熱、咽頭痛をきたすようになり、複数の医療機関を受診してもよくならないとのことで、私の外来を受診されました。

初診時の所見です。手全体がぱんぱんに腫脹していました。

レントゲンでは明らかな異常はなく、私はこの時点で、腱鞘炎を合併した早期RA(Case1のパターン)を疑いました。

見立てを確認するために手関節のMRIを撮りました。

腱鞘滑膜炎は予想通りに認めましたが、RAらしさである骨びらんや骨髄浮腫は予想に反して確認できませんでした。

手がかりを求めて再度診察をやり直すと、四肢体幹にピンク色の斑状皮疹が出現しているのに気づきました。これを見た瞬間、これはRAじゃない!と直感しました。

この皮疹をフォローすると、数日できれいに消退するだけでなく、体幹では下着の擦れる部位や引っ掻いた跡に一致して線状の紅斑(scratch dermatitis)を認めました。

これはいわゆるサーモンピンク疹であり、成人Still病に特徴的な皮疹です。

手がかりが得られたのでさらに裏をとりながら詰めていきました。

採血では炎症反応の上昇と肝酵素の軽度上昇を認めるのみでした。

リウマチ膠原病関連ではリウマトイド因子、抗CCP抗体、抗核抗体をはじめとする自己抗体はすべて陰性でした。

感染症関連ではパルボウイルス、風疹ウイルスをはじめとする各種ウイルス検査はすべて陰性で、血液培養も陰性でした。

これは成人Still病の診断基準ですが、本Caseではほとんどの項目が当てはまり、最終的に成人Still病と診断しました。

成人Still病には、関節炎を主体とするRAサブタイプRA mimic)と、胸膜炎や血球貪食症候群、DICなどの全身症状を主体とする非RAサブタイプの2つの病型があり、前者では血清フェリチン値やIL-18の血清濃度が低く、後者ではこれらの値が高い特徴があると報告されています。

本Caseは関節炎が主体で血清フェリチン値も軽度上昇にとどまっていることから軽症のRA サブタイプと判断し、低用量のステロイドにMTXを併用して治療を開始しました。

治療経過です。

PSL20mgとMTX8mg/wを投与開始したところ、手の腫脹を含むすべての症状はすみやかに消失しました。

ご本人もすっかりお元気になり、ふだんの生活に復帰しています。

Case 4 70代男性「手がぱんぱん」

もともとお元気な70代の男性です。

1か月前から急に全身の痛みに襲われて寝起きが困難となり、私の外来を受診されました。

診察では、万歳の動作としゃがんだ状態からの立ち上がりができず、肩関節と股関節の周辺にある滑液包部位に一致して圧痛があり、手と足が腫れていました。

採血では、CRP10台と炎症反応の上昇を認めました。

ところで滑液包とは、少量の液体が入った袋状の構造物で、腱と骨の間、腱と筋の間,皮膚と骨の間などに存在し、互いの摩擦を和らげるクッションのような役割があります。

高齢者ではこの滑液包が急に炎症を起こすことがあり、これをリウマチ性多発筋痛症(PMR)とよんでいます。滑液包の炎症が、肩関節周囲や股関節周囲で起こると頸・肩や腰・大腿に痛みやこわばりが生じますし、手背足背で起こると手足がぱんぱんになります。60歳以上の高齢者に多く発症し、発熱、食欲不振、体重減少、倦怠感、うつ症状などを伴うこともあります。

「67 体の痛み-リウマチ性多発筋痛症」(堤が執筆)も参考にしてください

PMRっぽい症状は、菌血症(特に感染性心内膜炎)、血管炎(特にANCA関連血管炎)、RAでもみられることから、これら他疾患をていねいに鑑別することが大切です。

本Caseでは、血液培養は陰性、血管炎マーカー(MPO-ANCA、PR3-ANCA)は陰性、RAマーカー(リウマトイド因子、抗CCP抗体)は陰性でした。

こういう状況で考えられる鑑別疾患は、PMRRAマーカー陰性のRAの二択になり、最終的には治療への反応性で判断するしかありません。

私がふだん行っている方法は、まずステロイド(PSL15mg/日)を2週間投与してみて、もし速やかによくなればPMRと判断しそのままステロイド単剤で治療を継続します。逆によくならなければRAと判断し抗リウマチ薬をしっかり開始しながらステロイドをどんどん減らしていきます。

本Caseではステロイドが著効しましたので、PMRと最終診断しました。

このPMRはステロイドだけで本当によくなります。あれだけつらかった痛みやこわばりが嘘のようになくなったと皆さん笑顔でおっしゃいます。私はこれを「かかっていた呪いが解ける」と表現しています。

今後は、ぶり返しがないことを確認しながら少しずつステロイドを減量していき、最終的には少量で維持するか、中止を目指します。

Case 5 30代女性「手がぱんぱん」

30代の女性です。

1週間前に38度台の発熱、悪寒、頭痛、全身痛が出現してその後軽快傾向でしたが、きのうから手のむくみとこわばりが出現してきたとのことで、私の外来を受診されました。

診察では両側の手関節が腫れていました。

一般に急に全身が痛くなった若い患者さんをみたら、パルボウイルスB19(PVB19)感染症を真っ先に考えます。

PVB19感染症は、小児においては伝染性紅斑(リンゴ病)が有名ですが、成人では関節症状が目立つため早期RAとの鑑別を要したり(RA mimic)、さまざまな自己抗体が陽性となることからSLEとの鑑別を要することもあります(SLE mimic)。

PVB19の主な感染源は小児であり、鼻咽頭を介して飛沫感染します。小児と接する機会の多い母親や、幼稚園や小学校の教師、病院職員などは感染のリスクが高いです。

成人に感染するとウイルス血症をきたして10日前後でまずインフルエンザ様の症状を呈し、その数日後からIgM抗体の出現とともに皮疹や関節炎がみられます(二峰性の臨床経過)。この時期にはウイルス血症は消失しており、周囲への感染力はほとんどありません。PVB19は一度感染すると終生免疫が得られ、一般に再感染はしません。

PVB19感染症を疑ったら、身体所見で淡い紅斑関節炎の有無を確認し、IgM抗体で診断を確定します。

本Caseで皮疹を探したところ、前腕部に淡い網目状の紅斑をみつけました。

ご本人にいろいろ尋ねると、職業は看護師で、小さなお子さんがいて、しかも通っている保育園ではリンゴ病が流行っているとのことでした。

アセトアミノフェンの処方だけでフォローしたところ、1週間後には皮疹は消退し関節症状もすっかり改善していました。提出していたPVB19 IgM抗体は予想通り陽性でした。

ということで、最終診断はパルボウイルスB19(PVB19)感染症です。このウイルス感染症は結構多くて、私自身この半年間で4人診断しました。

私の攻め方

RAを正しく診断できれば、迷いなくRA治療を強化することができるため、あとは攻める!だけです。

ふだん私が実践している攻める!治療では、まず腫れている関節へ積極的にステロイド関節注射を打つと同時に、MTXを6~8mg/wで開始しその後10~12mg/wまですみやかに増量します。それでも症状が残る場合には、腫れている関節へ再度関節注射を打つと同時に、抗リウマチ薬を追加、あるいは生物学的製剤を導入します。ほとんどのケースで速やかな寛解導入が可能です。

関節注射は非常に有用な補助治療手段であり、欧米では当然のごとく使用されています。炎症関節に直接ステロイドを作用させることで、強力に局所の炎症・疼痛を抑制することができ、抗リウマチ薬の効果がより発揮されやすくなります。関節注射によるステロイド投与は、連日のステロイド内服に比べれば全身作用ははるかに少なく、米国リウマチ学会のRA治療ガイドラインにも有効な手段として記載されています。

寛解導入を達成したあとは、治療をそのまま継続して深い寛解にもちこみ、将来的には生物学的製剤の中止も含めた治療薬の減量を目指すことになります。